HLA と薬剤の副作用について
HLA の型(アリル)と薬物の副作用の発現には深い関連性が認められています。
近年、特定の HLA アリルと一部の薬物の組み合わせにより、重篤な薬物毒性を引き起こすリスクがあることが次々と明らかになってきました。(1)(2)(3)
このことから、HLA アリルをバイオマーカーとして用いて副作用の予測や治療の最適化を目指す研究が進められています。
弊社では薬剤の副作用予測のための HLA-A, HLA-B ジェノタイピング を行うことが出来ます。
検査の流れはメニューバーの『その他検査/サービス』内にある『薬剤副作用リスクの予測検査』をクリックするとご覧いただけます。
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HLA アリルと薬剤副作用の例:① 抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギンなど)
② 痛風治療薬(アロプリノール)
③ エイズ治療薬(アバカビル)
④ 関節リウマチ・潰瘍性大腸炎治療薬(サラゾスルファピリジン)
① 抗てんかん薬
副作用報告件数/副作用救済給付件数

左の表は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, PMDA)の Webサイトで公開されている「医薬品副作用データベース」ならびに「副作用救済給付の決定に関する情報」から、各薬品の副作用報告件数と副作用救済給付件数をまとめたものです。 カルバマゼピンの副作用救済給付件数が他の薬品に比べて多いことがわかります。

薬品名:カルバマゼピン (Carbamazepine, CBZ) (先発品:テグレトール)
カルバマゼピンは世界中でてんかんの治療薬として使われていますが、副作用である薬疹の発症率が高いことが問題となっています。薬疹発症例を用いたゲノムワイド関連解析などの研究により、下記3つのアリルの内1つでも持つ患者は、同型を持たない患者に比べてカルバマゼピンによる薬疹が起こりやすいことが報告されました。(4)(5)
また、薬疹が起こりやすいだけでなく重症薬疹を引き起こす可能性も高いことが判明しています。海外では投薬前に HLA 型を調べることが推奨され、保険診療として実施されている国もあります。日本では保険収載されておらず、医師もなかなか検査を勧めにくい背景があります。
ハイリスク型:HLA-A*31:01, HLA-B*15:02, HLA-B*15:11
※ 世界の他の地域では HLA-A*24:02, HLA-B*44:03 など様々な HLA 型についてもリスク有りの報告がされてますが、日本人では上記3アリルが強く関連していることがわかっています。

薬品名:フェノバルビタール (Phenobarbital, PB)、フェニトイン(Phenytoin, PHT)
フェノバルビタールはGABA受容体に作用するとこで神経機能を抑制し、フェニトインはNaチャネルの阻害により神経の過剰な興奮を抑えます。これらの薬剤により誘引された日本人のSJS/TEN患者を対象にした解析で、HLA-B*51:01 との有意な関連が報告されています。(6)
また、フェニトインの解毒代謝酵素CYP2C9の機能低下多型であるCYP2C9*3(1075A>C, Ile359Leu)との有意な関連も示されています。日本人集団におけるCYP2C9*3 の頻度は約3%です。
ハイリスク型:HLA-B*51:01




薬品名:ゾニサミド (Zonisamide, ZNM)
NaチャネルやT型Caチャネルを阻害することにより抗てんかん作用が発揮されます。また、パーキンソン病の症状の改善にも使用されています。日本人のゾニサミド誘因性のSJS/TEN患者を対象にした解析で,HLA-A*02:07 との有意な関連が報告されています。(6)
ハイリスク型:HLA-A*02:07

② 痛風治療薬

薬品名:アロプリノール (Allopurinol)
アロプリノールは高尿酸血症薬として用いられ、毒性表皮壊死融解症及び皮膚粘膜眼症候群のリスクがあるHLA型 HLA-B*58:01 が報告されています。(7) このことは薬の添付文書にも記載されています。
このハイリスク型HLA の日本人の保有率は1~2%です。
ハイリスク型:HLA-B*58:01

③ エイズ治療薬

薬品名:アバカビル (Abacavir)
アバカビルはエイズ治療薬として使われていますが、HLA-B*57:01 を保有する患者では過敏症反応(発疹、発熱、呼吸困難など)が有意に発症することが報告されています。(8)
そのため、欧米では投与前に HLA-B*57:01 スクリーニングをすることが推奨されています。
一方で、日本人の HLA-B*57:01 アリル頻度は 0.005~0.012%と低く、充分に認識されてい
ないのが現状です。
ハイリスク型:HLA-B*57:01

④ 関節リュウマチ・潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬

薬品名:サラゾスルファピリジン (Salazosulfapyridine)
炎症全般を抑制する作用があり関節リウマチなどの治療薬として広く使用されていますが、副作用として薬疹の発症が問題となっています。2024年に下記3つのアリルの内いずれか1つでも持つ患者は、同型を持たない患者に比べて薬疹が起こりやすいことが報告されました。(9)
これらをバイオマーカーとして用いることで、薬疹発症リスクを予測することができます。
ハイリスク型:HLA-A*11:01 HLA-B*39:01 HLA-B*56:03

引用
1. OMIM
2. 厚生労働省医薬・生活衛生局:医薬品・医療機器安全性情報 No. 336 (2016年9月)
3. 厚生労働省医薬・生活衛生局:医薬品・医療機器安全性情報 No. 372 (2020年4月)
4. Ozeki T, Mushiroda T, Yowang A, et al. Genome-wide association study identifies HLA-A*3101 allele as a genetic risk factor for carbamazepine-induced cutaneous adverse drug reactions in Japanese population. Hum Mol Genet 2011;20(5):1034-1041.
5. Fukunaga K, Tsukagoshi E, Kurata M, et al. Differential Effects of HLA-B∗15:11 and HLA-A∗31:01 on Carbamazepine-Induced Cutaneous Adverse Reactions. J Invest Dermatol 2024 Apr;144(4):908-911.e7.
6. Kaniwa N, Sugiyama E, Saito Y, et al. Specific HLA types are associated with antiepileptic drug-induced Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis in Japanese subjects. Pharmacogenomics 2013 Nov;14(15):1821-1831.
7. Tohkin M, Kaniwa N, Saito Y, et al. A whole-genome association study of major determinants for allopurinol-related Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis in Japanese patients. Pharmacogenomics J 2013 Feb;13(1):60-9.
8. Saag M., Balu R., Phillips E., et al. High sensitivity of human leukocyte antigen-b*5701 as a marker for immunologically confirmed abacavir hypersensitivity in white and black patients. Clin Infect Dis 2008 Apr 1;46(7):1111-1118.
9. Fukunaga K, Tsukagoshi E, Nakamura R, et al. Association of HLA-A11:01, HLA-B39:01, and HLA-B56:03 with salazosulfapyridine-induced cutaneous adverse drug reactions. J Allergy Clin Immunol Pract 2024 May;12(5):1355-1358.e3.