Nanopore sequencingによる
HLAタイピングの経緯
HLA タイピングに Nanopore sequencing が取り入れられてきた経緯
・2015年、Nanopore sequencing による HLA-A, -B の Long-read シーケンスが報告される(1)。
・2020年より Nanopore sequencing による HLA タイピングの論文が複数報告されるようになる。参考文献2、3、4など10報以上。
※この時期に Nanopore sequencing の精度が HLA タイピングに必要なレベルに達したと考えられます。ただしデータ解析システムを独自に構築する必要性があり、一般的な検査室には難しいものでした。
・2023年春ごろ、Nanopore sequencing 専用 HLA 検査試薬「NANOTYPE」と判定ソフト「NANOTYPER」が OMIXON 社(ハンガリー)より発売される。
同年秋、HLA 検査試薬「NGS-Turbo」と判定ソフト「NGSengine-Turbo」が GENDX 社(オランダ)より発売される。日本での正規代理店は理研ジェネシス。
※上記のナノポア専用解析ソフトの販売で、研究室や検査室でナノポアシーケンスによる HLA タイピングを実施することが可能となってきました。
参考文献:
1. Ammar R, Paton TA, Torti D, Shlien A, Bader GD, Long read nanopore sequencing for detection of HLA and CYP2D6 variants and haplotypes. F1000Res. 2015 Jan 21:4:17.
2. Montgomery MC, Liu C, Petraroia R, Weimer ET, Using Nanopore Whole-Transcriptome Sequencing for Human Leukocyte Antigen Genotyping and Correlating Donor Human Leukocyte Antigen Expression with Flow Cytometric Crossmatch Results. J Mol Diagn. 2020 Jan;22(1):101-110.
3. Mosbruger TL, Dinou A, Duke JL, Ferriola D, Mehler H, Pagkrati I, Damianos G, Mbunwe E, Sarmady M, Lyratzakis I, Tishkoff SA, Dinh A, Monos DS, Utilizing nanopore sequencing technology for the rapid and comprehensive characterization of eleven HLA loci; addressing the need for deceased donor expedited HLA typing. Hum Immunol. 2020 Aug; 81(8): 413-422.
4. Stockton JD, Nieto T, Wroe E, Poles A, Inston N, Briggs D, Beggs AD, Rapid, highly accurate and cost-effective open-source simultaneous complete HLA typing and phasing of class I and II alleles using nanopore sequencing. HLA. 2020 Aug;96(2):163-178.
HLA タイピングが Long-read シーケンスを要求する背景
HLA には非常に多くの型(アリルタイプ)が存在します。アリルタイプはSNP(1塩基多型)の組み合わせによって決定されます。
short-read シーケンスでは300~500 bp 程度の短い DNA 断片をつなげて配列を決定しますが、ある断片の SNP と別の断片の SNP が同じ染色体上にあるのか否かを判定することが難しいことがあります。
一方で、Long-read シーケンスは数キロ bp の DNA 断片を一度に読み取ることができるため、複数の SNP が同一染色体上にあることを確実に判定することができます。
イントロン領域(第4区域)まで必要?
HLA のアリルタイプは年々登録数が増えており、その多くはイントロン領域(第4区域)の違いによるものです。
HLA の研究が進むにつれ、HLA は単なる自己認識のための複合体ではなく、薬剤感受性や特定の疾患のリスクファクターであることが判明してきました。
また、極めて稀ではあるもののイントロン領域の SNP が原因でスプライシングのパターンが変化して、発現量などに影響がでる場合があります。
ゆえに、イントロン領域を含んだ配列=第4区域(8桁)までカバーする方がより望ましいとされています。
今後のグローバルスタンダードとなる可能性
フローセルと試薬の改良により Oxford Nanopore sequencing は年々読み取り精度が向上しています。それに伴い、報告される HLA タイピング の論文も増えてきました。
また、DKMS(白血病撲滅を目的とするドイツの慈善団体)が擁するDKMSライフサイエンスラボは、ナノポアシーケンス用の High-Throughput HLA 解析ソフト「kTypeR」を開発したことを2020年に発表しました。
2020年に多くの論文が発表された理由のひとつとして、モノヌクレオチドの連続配列(AAAAA・・・など)の読み取りが大きく改善されたことが考えられます。これにより、ナノポアシーケンスを用いた HLA タイピングが可能であると判断されたようです。
弊所は2021年にナノポアシーケンスによる HLA タイピングの検証を始めました。検証初期でも既知配列のコントロールを測定した場合の読み取り精度は約95%であり、問題なく判定が可能であることが確認できました。
2024年4月頃の検証では、読み取り精度99.1%まで上昇。この精度のデータを200~500個程度重ねることで超精密かつ高解像度の判定が可能となりました。
これらのことから、Nanopore sequencing による HLA タイピングは今後グローバルスタンダードとなっていくと考えられます。